眉毛

最近よく一緒に演奏するドラムのF氏。

演奏も人柄も大好きなんだけれど、一つだけ気になっている事がある。

どうも彼は、私の眉毛をちょいちょい見ている、話をしていても視線が眉毛に行っているような気がするのだ。

特にお酒を飲むと、上下にぴこぴこ動かしたり思い切り中央に寄せたりして、私の真似だと言う。

そんな筈はない、冗談も過ぎると思ったが、ふと、ある出来事を思い出した。

もうずっと前、若かった頃のことだ。

24歳の時、虫垂炎を拗らせて2ヶ月近く入院した。

手術後、病室に来た母が、私の顔を見るなり唐突に「眉毛だけは毎朝、書きなさい。」と言った。

母は思ったことをそのまま言うタイプで、それは私も同じだから、何も考えずに素直に従った。

アイブローペンシルは、退院するまでベッド脇の棚にいつも置いてあった。

私はへの字眉で眉山の部分が特に薄い。ぱっと見で眉毛がないように見える。　　

それでいて目ヂカラは怖いくらい強いらしく、若い頃は特にそうだった。

目ヂカラ強くて眉毛がないっていうのは、想像するとかなり怖い。

入院中で長い黒髪がざんばらだし、母はきっと、私を見てぞっとしたのだ(笑)。

「眉毛だけは書きなさい。」という、その時の母の言葉がちょっとした強迫観念になった。

”お化粧を上手くなろう”という女性らしい意欲が少しでもあればまた違ったんだろうが、眉毛だけ、特に念入りに書くようになった。

職業柄、仕事仲間は殆ど男性だったが、「みっちゃん、今日の眉毛、太過ぎ。」とか「左右、違う。」とか「書き過ぎ」「濃すぎ」とか、まぁいろいろ言われた。

きっと違和感ありまくりな眉毛だったんだろうと思う。入魂の作だったが、、。

そんなある日、だいぶ年上の男性から「あなたねぇ、そんなに眉毛動かしてるとシワになるよ。」と言われた。

怒ったり喜んだり驚いたりすると、瞬時自在に( 主に上下方向へ )動くらしいのだ、全く自覚はなかったが。

妙に存在感のある眉毛が盛大に動くもんだから、男性も一言言わずにいられなかったのかもしれない。

アドバイスなんだか正直な感想なんだか分からなかったが、「はぁ、、。」と返事をしたきりすっかり忘れてしまった。

あれから数十年、記憶の底に埋もれていたこの出来事が、F氏の物真似を見ていてふっと脳裏に蘇った。

「あぁ、そうだった。シワになるからやめろと言われていたんだった、、。」

忠告をきかず、予言通りにしっかりシワになったが、歳をとればまぁこんなものだろうと思うので、あまり気にならない。

若い頃に比べれば、お化粧は少しはマシになったろう。

それより喫緊の課題は、F氏にあの変てこな物真似をやめてもらうことだ。

尊敬する大先輩であるからなんと言ったものやら、、。

「目は口ほどに物を言う」。

私の眉毛は口ほどに物を言っていると思われるので、どうかF氏が、私の眉毛の動きからそこらへんを察してくれるといいなぁ、、と願っている。