不如楽之者

論語というと、「男女七歳にして席を同じゅうせず」とか「女子と小人は養い難し」とか、ちょっと古臭い道徳の教えだと思っていた。

「天網恢々、疎にして漏らさず-老子-」。政治家が国会なんかで威勢よく言うけれど、昔の偉人の教えはさすがに的確だねぇくらいにしか感じなかった。

 

最近、たまたま出会ってめちゃめちゃ心に残った論語の格言がある。

 

「之を知る者は、之を好む者に如かず。

之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」

 

ジャズにぴったりな言葉だと思った。

 

ジャズを知って、好きになる人は多い。

でも、その楽しみ方が本当に分かるまでがちょっと大変だ。

最初はどれを聞いても殆ど同じに聞こえる。

私なんかは、アルト・サックスもテナー・サックスも同じに聞こえた。

でも、聞き続けるうちに少しづつ違いが分かるようになる。

いったん理解して耳が慣れてくると、もの凄いマニアになる人が少なくない。


近頃は、居酒屋さんやお蕎麦やさんにもジャズが流れていて、好きが高じて楽器を習い始め、そのうちセッションに参加するまでになる人もいる。

まさに”之を楽しむ”=”ジャズを楽しむ”だ。

 

他の趣味でも、たぶんここまでは同じだろう。

でも、ジャズを仕事にしている人たちにこの言葉を当てはめてみたら、あまりにぴったりで面白かった、、。

( 以下は私個人の感想です。いつもの事ですが^ ^; )

 

”之を知る”=難しいジャズ理論を習得して、リズムやコード/スケールを研究する。

”之を好む”=時間を惜しんで練習する。友人たちとパーティーや旅行に出掛けるより、一人、楽器と向き合う方が嬉しいと感じるようになる。

 

そして、この段階から”之を楽しむ”までが、とてつもなく長い道のりだ。

個人差もあるので一概には言えないのだが、私の場合、もうずっとこの”楽しむ”以前=道半ばの状態にいるわけで、、。

 

ほとんどのミュージシャンが、理想や目標に向かって試行錯誤を重ね、日々努力している。

私のような中途半端な者はなおさら頑張る。

それは苦行でも苦労でもなんでもなく当然の事で、むしろその努力が好きだから仕事にしているわけで、それでも、上手くできない悔しさや反省の連続に疲れると、気力を失いそうになったり、「ま、いっか。」と投げやりな気持ちになったりする。

 

私にとって”楽しむ”という事は、遠くに霞むゴールのようなものだ。

 

でも時折り、ほんの一瞬だが、自分のピアノの音が心地よく聞こえる時がある。

本当に稀なその瞬間、音楽が息をする。踊りはじめるのを感じる。

それがきっと、”楽しむ”という事なんだと思う。

覚えておこう、と思うが、二度と同じようにできない。まだ自分のものになっていないのだ。

 

”之を知る”から”之を好む”までがジャズを仕事にしようと決心する過程だとすると、”之を楽しむ”は、それぞれが志を持って黙々と自分の道を歩いていく先にあるものかもしれない。

 

「初めてジャズを聴きましたが、良かったです。また聴きに来ます。」

最近、何度かお客さまにこう言って頂いた。

あぁ、この瞬間のために私は生きているんだなぁ、、つくづくそう思う。

 

自分が楽しい時、それが音を通して伝わっていく。

だから『音楽』だ。

そしてジャズという音楽には、”楽しむ”の先に、”挑戦する=チャレンジする”という大きな課題がある。

5GVRのような新技術が社会に生まれたように、音楽の世界でも常に”挑戦”が起きている。

人をあっと驚かせるイノべーターみたいな側面がジャズにはあって、世界的なミュージシャンから若い新米ミュージシャンまで、少なからずその事を意識して音楽に向かっているんだと思う。

最先端のジャズは、難解でさっぱりわからないものもあって、だいぶ以前から世界的な”ジャズ離れ”なんて現象も起きている。

でも、そのチャレンジ精神はジャズの本質でもあり、人気とか関係なく( 残念だけど )、これからも生き物のように形を変えて進化していくのだと信じている。

 

ジャズは知れば知るほど好きになる。

好きになればなるほど、楽しむ為のハードルは高く上がっていく。果てしなく上がっていく、、(苦笑)。

なかなか悩ましい音楽だと思う。

 

コメントをお書きください

コメント: 9
  • #1

    まっち (月曜日, 04 3月 2019)

    「天網恢恢疎にして漏らさず」は老子でしたか。講談の常套文句かと思っていました。

    「楽しむ」は、意味が広く深いです。
    受け手、聴く側としては、好きなジャンルの相応のレベルのものを楽しむことができます。
    または、素人レベルでプレイを楽しむこともできます。
    しかし、ジャズは大衆音楽とは違う側面をもちます。
    仕事として演奏される方々にとって楽しむことは、いくら進歩しても尽きる事のない生涯の課題なのでしょうね。
    頑張ってください。

    ところで、論語には、孔子が到達したであろう到達点を表したものがあります。
    「七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」
    まあ、我々一般人には、とうてい到達不可能な境地なのでしょうが。
    楽しむ事とは違いますが、これもジャズの演奏に当てはめてみると合う様に思えます。

  • #2

    michiko (火曜日, 05 3月 2019 07:37)

    「七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」
    良い言葉ですね、、。まさに到達点、と言うか、ずっといろいろな事を感じて考えて生きてきた人だけがそこに到達するんでしょうね。
    ジャズの場合、そうなる人もいるし、ますますぶっ飛んで行っちゃう人もいる気がします(笑)。”音楽的に”の話ですが。

  • #3

    ぅぉ (水曜日, 06 3月 2019 22:55)

    私は “好き” になるためのチャレンジの時点で音すら出せず挫けた脱落者なので
    何か書く資格はないのかもしれませんが、目標とか技術的なことの場合は、努力で
    達成して嬉しい、楽しいとなるのかも知れないけれど、この目標が、他者の評価と
    なると変わってくる。 先日、saxの偉い人の映画を見た。 すごい奏法を確立した
    主人公の晩年? 晩年というのか?若くして亡くなっているので ? としておこう
    以前演奏していた街、店の客引きが 素敵な演者をアピールしていたが その頃
    になると、いい娘いるよって客引きをしている。 音楽が聴ける場所に行くと、
    今時代はロックンロールだって言って 単純なコードの繰り返しの演奏をしている
    それで乱入するもつまみ出される。 すごい切ない映画でしたよ。
    いぇ、jazzが終わったわけではないのでしょうけれど、楽しむって難しいなぁと。

  • #4

    michiko (木曜日, 07 3月 2019 01:54)

    パーカーの映画かな?
    切ないですね、、。
    他者のまなざしってね、以前、『100分で名著』でサルトルの実存主義ってのを見たんですよ。よく分からなかったけど、ぅぉさんのコメント読んでいて、ボッと思い出した、、。
    天才は孤独で、ほんとそれは仕方ない事なのかも、と思いました。

  • #5

    ぅぉ (木曜日, 07 3月 2019 12:32)

    何か改行がおかしなことになってましたね。 すみません。
    サルトルですか、難しいものみてらっしゃいますね。
     私はサルトルと言えば、野坂さんのCMソングしか思い浮かびません。w

     天才は孤独なのかもしれませんが、大衆が移り気すぎるのも
    あるのかなぁと。

     あと上の話ですが、好きと楽しいは逆もあるのかも。
    例えば仕事。 好きでもない事やってても評価されれば
    気持ちも変わってきたり。とか。

  • #6

    michiko (木曜日, 14 3月 2019 19:55)

    "野坂さんのCMソング"って知らないかも、、。
    ぅぉさん、「好きでもない事やってても評価されれば気持ちも変わってきたり。」って、たぶん、”他者のまなざし”ってやつですよ。
    『100分で名著』、面白いですよ、伊集院光くんがすごいです。
    時々、学者さんより的確な事を言ったりするので、そこが見所だったりして、、
    (笑)。

  • #7

    ぅぉ (金曜日, 15 3月 2019 02:29)

    ♪ ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか〜 ニ、ニ、ニーチェかサルトルか〜
      み〜んな悩んで大きくなった〜 俺もお前も大物だ〜 ♪ てやつw

     多分そのまなざしでしょう。 ギャランティが上がるってのもいいかもですが。

     伊集院光くん てw  あの方、私と同い年、ま、私は禿げ散らかってて
     そうはみえないかもですが。  で、あの方何気に頭良いのですよね〜
     クイズとかの話ではなく、分析力っていうかなんて言うか。

  • #8

    ぅぉ (金曜日, 15 3月 2019)

    ありました。 これです。
    https://www.youtube.com/watch?v=uopVGKgd3n8

  • #9

    michiko (金曜日, 15 3月 2019 13:34)

    そうそう、分析力!
    それにしても、YouTubeは無敵ですねぇ、、なんでも見れちゃう、、。
    このCM、思い出しました。
    野坂さん、独特なキャラでした。この時代、こういう人が多かったような、、。