禁句

「あれ~? 太った?」

 

この台詞は、女友達に絶対に言ってはいけない。

たいへん残念なことに、ほぼ常識となっているこの事実に私が気づいたのは、つい3年くらい前だ。

 

久しぶりに会った仲良しの○○ちゃんに、美味しいもの食べ過ぎちゃったのかな~、てなめちゃめちゃ軽い気持ちでつい言ってしまった....。

顔色が変わった彼女を見て、一瞬なにが起こったのか理解不能、あたふたと訳の分からない言い訳を並べてみたものの、結局、みっちゃんはもう~しょうがないなぁ....諦めに近い彼女の寛大さでその場は許してもらった ( と、思っている.... )。

私は私で、どうして彼女があんなに傷ついたのか、情けない事にさっぱり分からなかったので、男友達数人に聞いてみた。

「女性の友達に太った?て聞いたんだけどさ、」と言うが早いか、わ~、それ、言っちゃったの?みたいな凄いリアクションだったので、ようやく、これはもう絶対に言ってはいけない言葉だったんだと悟った次第だった。

 

20代の頃、かなりのストレスが原因で、今より10キロくらい痩せてしまったことがある。

ストレスから回復して体重も元にもどったが、思うに、”痩せる”という事にトラウマのような気持ちがあるのかもしれない。

逆に言えば、”太る”は私の中ではずいぶんと肯定的な言葉なのだが、女性、特に日本の女性にとってはまさに禁句だ。

 

そういえばかなり以前、jazz pianistの小曽根真さんがテレビ番組の中で、久しぶりに会ったらしいハービー・ハンコックに「やぁ、少し太りました?」というようなことを言った時 ( もちろん英語で・笑 )、ハービーがムスッと受け流した面白いシーンを思い出した。もっとも、記憶に残るくらい面白いと感じたのは私ぐらいだろうけれど。

 

とにかく、現代の先進諸国の住民たちにとって、”太る”は、女性に限らず男性も老いも若きも、みんなで忌み嫌う言葉になりつつある。

事の重大さを思い知ったのがつい3年前というのも我ながらかなり間抜けな話なのだが、本当を言えば、女性はぽっちゃりぷっくりしている方がなんとなく柔らかな感じがして、私は好きだ。

唯一気に入っている私の運転免許証の写真は、前日に飲み過ぎてぷくぷくにむくんだヤツだ。

 

それでも、「もうちょっと太った方がいいよ ! 」なんて、余計なお世話な台詞を女友達に言うのは、絶対にやめておいた方が良いなと思っている。